覚え書き

なんとなく生きている学生の話したい事

トゥイークとクレイグについて

突然ですが、皆さんトゥイークとクレイグは知っていますか?この画像の2人です。金髪の子がトゥイーク、青い帽子をかぶっている子がクレイグです。

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この2人、サウスパークの登場人物としては結構古参なのですが、近年俄かに注目を集めています。なぜなら公式でカップルになったから。s21終了時点ではサウスパーク小唯一のカップルになってしまいました。ここ数年のシーズンを観ていない人には信じられないかもしれないですね。ちなみに2人のカップリング名をcreekといいます。

実は先日s21e10を観返していて、この2人はなぜカップルになったのか、なぜ関係が続いているのか、などいろいろと思いをはせてしまったので、こうして2人についての記事を書いてみることにしました。

2人の馴れ初めが馴れ初め(?)ですので、腐女子だのBLだののかなりディープな話を取り上げています。私はサウスパークにハマってまだ日が浅いほうなので、古くからのファンの気に障る記述をしてしまうかもしれません。苦手な人は自衛をお願いします。あと気が付いたら記事がべらぼうに長くなっていたので暇な人向けです。

では本文は続きを読む、でどうぞ。

 

 全ての始まり

 

まず特筆すべきはこの回でしょう。s03e04 Tweek vs. Craig

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 スタン達いつもの4人が、クラスで一番の問題児がトゥイークなのかクレイグなのかで対立。2人を無理やり戦わせ、どっちの方が強いのかの議論かに決着を着けようとするお話です。これに技術科教師のアドラー先生の悲しいトラウマのストーリーが合わさり、初期のサウスパーク特有のアップテンポで荒唐無稽なコメディとなっています。

この回、今観返してみるとそんなに燃料って感じはしないです。トゥイークもクレイグも相手の事は大して気にしておらず、ただただ周りに流されて喧嘩しているだけですから。全編通して観ても、2人の会話は最後のシーンの「このサノバビッチ!」くらいですしね。

それでもこの回は当時の腐女子にとって十分に魅力的で、2人のカップリングはそこそこ人気がありました。最終的に明らかに相手に敵意を抱いて喧嘩したものの、その後の回では2人で仲良く背景にいることが多々あった事も理由の一つかもしれません。でもそれ以上に、当時のサウスパークの人気の高さが影響していると思われます。

 

 この回は無修正映画版が公開される直前に放映されたエピソードで*1、この映画は非常に評価が高く(アカデミー賞にノミネートもされました)サウスパークの人気を決定的なものにしました。つまりこの回を含むシーズン3以降しばらくが、サウスパークの人気がまさに絶頂だったころなのです。

とはいっても当時はまだスラッシュ*2文化が今ほど活発ではなく、サウスパークで人気のスラッシュカップリングはstyle(スタンとカイル)くらいでした。それが時代が下りシーズン11頃、キッズ間の様々な人間関係が掘り下げられていくにつれて段々サウスパークにもスラッシュ文化が押し寄せ、様々な男性間カップリングが流行るようになりました。その一環で、2人の絡みが腐女子に認められ、多くのファンアートやファンフィクションが作られるようになりました。

とはいっても、2人が深く関わった回はこれっきりです。サウスパークで人気のある定番カップリングはいくつかありますが、dip(ダミアンとピップ)gregstophe(グレゴリーとモグラ)など、大昔に一度絡んだきりの組み合わせというものも多々あります。それはやはり、彼らの絡みがサウスパーク絶頂期の物=多くの視聴者に知られていて、なおかつ彼らは他に深くかかわったキャラがいなかったためでしょう。

 

 

作者、ファンアートを見つける

 

さて、こんな感じで大した燃料もなく細々と愛されてきたcreekですが、ある時事件が起きます。作者がサウスパークのカップリングイラストの存在を知ってしまうのです。

トレイとマットは知り合いにこれらのイラストを見せてもらったそうです。恐らく多くのカップリングがありましたが、その中でも特にクレイグとトゥイークのイラストが印象に残ったようです。当たり前ですね、2人は基本的に、コンビ扱いされるような関係ではないですから。*3

トレイマットはこのイラストを観た時期については言及していませんが、なんとなく想像することはできます。恐らくシーズン17の前でしょう。シーズン17では、いくつかトゥイークとクレイグの2人を意識した描写が観られます。

s17e02 Informative Murder Porn

クレイグがマインクラフトでトゥイークの両親にタンポポを盗まれる、親がパスワードを突破していることを共に報告しに来るなどの絡みがあります。

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s17e07 Black Friday

PS4派が分裂する際のきっかけがこの2人です。3部作通して、隣にいる様子がちょくちょく見受けられます。

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しかしこれだけでは終わりませんでした。後年トレイとマットは、ある時ふとこの時のネタを思い出すのです。

 

 

伝説のやおい

さてシーズン19も後半戦になったころ、このような告知がなされました。

来週のエピソードで使うから、トゥイークとクレイグのyaoiイラストを送ってくれ!

サウスパークがカップリングイラストの存在を認めた!あまつさえそれを募集した!と、facebookではちょっとした祭りになったようです。コメント欄では、歓喜するcreekの腐女子、なぜこの2人なのかと怒る別カプの腐女子、ひたすら困惑する普通のファンが入り乱れ、投稿数がえらいことになっています。

有名なのはキャリー・ジョーダンさんでしょうか。彼女はcryle(クレイグとカイル)の腐女子で、ブログのコメント欄でトゥイークを罵倒しながら発狂していました。残念ながら彼女のコメントはもう削除されてしまったようですが、ブログの跡地は今でも見ることができます。伸びに伸びたコメント欄と議論の様子を感じてみてください。

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 募集期間はたったの一日、しかもアメリカ国内からのものに限っていたにもかかわらず、1000以上の応募があったらしいです。*4地味にpixivからの無断転載と思わしきイラストもあります。

 

こうして完成したエピソードが、s19e06 Tweek x Craig

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サムネからしてもう圧倒的な存在感を放っていますが。ストーリーが知りたい人は、「サウスパーク やおい」とかで検索すると記事が沢山ヒットするのでそこで確認してください。「Yes, we are gay.」や「ゲイかどうかは本人の自由ではない。日本が決めるんだ。」などのパワーワードがてんこ盛りの神回です。

実はこの回も、この2人の間に決定的なカップリング要素を見出せるかと言われるとそうとは言い切れない、なんとも複雑な話でした。まずこの回は、確かにやおい文化を揶揄しているのは事実なのですが、それ以上に近年のLGBT運動の高まりとそれを過度に支援し、寛容な自分をアピールしようとする風潮を皮肉っているのです。2人が付き合っているといううわさを聞いた町の大人たちはそれを大げさに喜び、トゥイークとクレイグの両親は息子に金を与えて支援しました。ストーリーをそのまま受け取ると、周りの圧力に屈した二人が、町の住人たちの幸せの為に本意を捻じ曲げて付き合うふりを続ける決断をした・・・というように取れるんですよね。ファンコミュニティでも、「この2人は本当の意味でのカップルになったのか」という議論はかなり白熱していたようです。

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判断に困るのがキューピッド・ミー*5絡み。彼は中盤クレイグに魔法の矢を射ていましたが、その効果についてはそれらしい描写がありません。クレイグは翌日、トゥイークと大喧嘩してしまいます。

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そしてラストのトーマスがクレイグに語りかけるシーン。トーマスは田舎の保守的な白人として描かれていて、自分の息子がゲイであることを受け容れることができません。しかし、キューピッド・ミーの矢に射抜かれたトーマスは、クレイグに「ゲイであるのは日本のせいだから、自分がゲイである事を受け容れて良い。自分はお前がゲイでも愛している」と伝え100ドルを渡します。

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そして翌日、クレイグはトゥイークの手を握ります。何故クレイグはこの選択に至ったのか?トーマスの言葉がきっかけなのは疑いの余地がないですが、

①父親にまでもゲイであると思われたため、説得は不可能だと判断して諦めた。

②自分がゲイである事はどこかで自覚していて、父親に「例えゲイでも誇りに思う」と言われ己の性的指向に向き合うことにした

③(②と並行して)キューピッド・ミーによって、知らずのうちにトゥイークに恋心を抱くようになっていた

素直に話を観れば①なのでしょうが、後年の彼を見ているとあながち②と③も間違ってはいないのかなという気分になってきました。

何はともあれこの回の放映後、creekのファンアートやファンフィクションは爆発的に増え、tumblrを制圧し、一気にサウスパーク二次創作界隈のトップCPに躍り出ました。

 

 

Put It Downという爆弾

 

s19e06の後、シーズン20が終わるまで2人がストーリーの本筋に絡むことはありませんでした。ちょいちょい周りのキャラクターは2人の関係について言及しており、本人たちも背景で手を繋いで歩いていたりしていましたが、上述した議論が進展するような描写は皆無でした。

そして、s21e02 Put It Downが放映されます。

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あらすじについては、以前記事を書いたのでそちらを参照してください。

サウスパーク season21 e02感想 ”Put It Down” - 覚え書き

 

 

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この回で大きかったのが、クレイグがトゥイークにいわゆるpet name(Babe, Honeyなど)を使っていたことです。2人っきりでやってきた遊園地、つまり周りにサウスパーク住人が誰もいない状況で、そのような恋人らしいふるまいをするのは腐女子達にとっても完全に予想外で、これをもって2人の関係はフェイクではない主張が圧倒的に優勢となりました。そして予想通りと言いますか、tumblr及びAO3は再び制圧されました。

 

しかしなぜ、ここに来てこの2人の関係性を進めた(というか、そういう関係であると明示した)のでしょうか?そのヒントは、この回でフィーチャーされているもう一組のカップルhyman(カートマンとハイディ)にあります。カートマンはハイディに「別れるっていうなら自殺してやる!」と自己中心的に迫ることで関係をさらに泥沼化させており、他人の気持ちを推し量ることで仲を深めたcreekと対称的に描かれています。そしてシーズン21も進み、hymanのエピソードがストーリーの中心となってゆくのですが・・・

 

 

シーズン21におけるcreekの立ち位置とは

 

さてシーズン最終話です。s21e10 Splatty Tomato

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あらすじはサウスパーク season21e10感想 “Splatty Tomato” - 覚え書きからどうぞ。

 

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この回でメインとなる子ども達は、上の画像の6人です。

今シーズンのキーパーソンであるハイディは別として、スタン・カイル・カートマン・クレイグ・トゥイーク。かなり珍しい組み合わせです。いつもならいるはずのケニーとバターズ、それに次ぐ登場頻度を誇るジミーやITパロの時はいたはずのトークン(ただしITにおけるマイクのまさにトークン・ブラックっぷりを揶揄しているだけのような気もする)ではなく、あえてのクレイグとトゥイーク。なので何か特別な役割があるのかと言えばそんなことはないんですよね。ただ一緒に歩いて、別に他のキャラでも代用が効くようなセリフをしゃべって、それだけです。はっきり言って、この回における2人の存在意義はほとんど無い。

しかしエピソードを注意深く観ていると、画面構成になんとなくこだわりを感じます。

f:id:kyoncy_kyoncy:20180203002445j:plain※この画像はエピソード予告の時の物で、実際のオンエアー版では若干異なります

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e10ではしばしばハイディとカートマンのもめ事が起こりますが、その時なぜか背景にクレイグとトゥイークが映っています。

恐らくe02の逆でしょう。creekをheimanの比較対象として設置しています。相手を思いやる事で上手くいっているゲイカップルと、双方自分本位なせいでうまくいっていない男女カップル。LGBTに理解がない人にとっては、ゲイカップルは”異常”な存在です。しかしサウスパークは”普通”であるはずの男女カップルに異常性を持たせ、普通な関係を築いているゲイカップルと対比させることで、同性愛カップルを異常と見なすことへの疑問を呼び掛けているのではないでしょうか。

サウスパークは伝統的にLGBT関連にかなり寛容な立場を取っています。スレイブ君やビッグ・ゲイ・アルなどの代表的なゲイキャラクターは人間的にもバランスが取れた人格者として描かれていますし、彼らは結婚して特に問題もなく幸せに暮らしていることが伺えます。この安定性は、子ども達の両親を除くサウスパークのカップルではかなり珍しい事です。しかし彼らの物語はs09e10で決着がついてしまいましたので、LGBT問題を扱う際の次代のとっかかりとして2人をゲイカップルにしたのではないでしょうか。

 

 

なんだかんだでサウスパーク(とトゥイーク)を救ったよねって

というわけで2人のカップル関係は一過性のものではなく、完全にレギュラー設定となりました。creekはスピンオフゲームであるTFBW及びPDでも公然のカップルとして扱われています。

ところでこの2人、IGNではサウスパークの救世主みたいな扱いを受けています。というのもやおい回が、シーズン19の評判が悪かった中久しぶりに来た出来の良い回だったのです。s21e02も、1話があまりにも期待外れであったためにファンが失望していた中現れ、「サウスパークようやく復活」といった感じでかなり好意的に受け止められました。シーズン21放送終了後も、シーズンでもっとも好きな話としてこの回を挙げる人は結構多いです。

そしてこのカップルネタがトゥイーク本人に与えた影響も大きいですね。トゥイークはケニー復活以降完全に背景モブと化してしまい、画面に映っただけでファンが沸き上がる始末でした。そろそろピップのように殺されるのではないかと言われていたところ、出番が復活して、しかもメイン回までもらえるようになったのですから、やおい回様々ですね。

クレイグも、どこか冷徹で暴力的なイメージがあったのが、恋人には優しく献身的なところが描写されてさらに魅力的なキャラになったと思います。

 

作者が飽きたネタは容赦なく破壊し、キャラもどんどん〇してゆくことでお馴染みのサウスパーク。全ては作者の機嫌次第ですから、彼らが飽きたらあっさりと破局してしまうかもしれません。シーズン22以降の2人にも要注意ですね!

 

 

※2月19日追記

とても大切なことを忘れていました。サウスパークRPG第二弾、The Fractured But Wholeでは、クレイグとトゥイークの関係性がフィーチャーされています!

トゥイークが別陣営に行ってしまった為2人は喧嘩してしまい、ゲーム開始時点では破局状態です。しかし会話の節々にお互いを気にしている様子が伺えます。そしてサブイベント”Therapy Wars”でカップルセラピーを受ける事で仲直りし、溢れ出すエロスが一つとなり世界を満たす合体必殺技を習得するのです。キャラ性能的にも、脳筋前衛型のクレイグと遠隔攻撃・回復の後衛型トゥイークで完全に補完関係にあります。

というかこのゲームを正史とするなら「2人の関係は町の人々のためのフェイク」説は完全に否定されますね…ごっこ遊びのしょーもない理由で別れたけど町の人々は特に気にしていない*6、でも別れても誰も気にしないなら復縁する必要もないですからね。やはり2人は正式なゲイカップルでFAでしょう。

 

 

※6月6日追記

シーズン21のDVD発売により、各話への作者のコメンタリーが発表されました。この2人に関しては、

・2人は所謂ゲイカップルではない。まだ幼い為、セクシャルな意味合いのある関係性はない。しかし、明らかに友達以上。カップルにありがちなネタとして扱うのに丁度いいので、2人の関係は気に入っている。

・トゥイークに(大抵はカップルの女性側に見られる)感情的な部分を、クレイグに(大体は男性側の)感情を排除して問題に集中する傾向を投影させ、カップル間問題を表現した。

こんな感じでしょうか。コメンタリーに関しては他の回も含めて、後日記事を書こうと思います。

*1:英語版wikipediaの当該エピソード頁より<https://en.wikipedia.org/wiki/Tweek_vs._Craig

*2:やおいカップリングの事

*3:シーズン19コメンタリーより<http://cheylouwho.tumblr.com/post/149428485516/here-we-go-the-moment-everyones-been-waiting

*4:公式Twitterhttps://twitter.com/SouthPark/status/664631612336828416

*5:カートマンの幻覚でありもう一つの人格。カートマンが気に入った2人をカップルにする能力がある。

*6:2人の親は流石に心配していますが、極度に悲しんだりはしていないですね。単なる親心やビジネス戦略でしょう